怨霊の池

南宮大社の少し西に位置するため池です。内輪では大谷池と呼んでいました。学生時代、深夜に車で徘徊していたとき、偶然に見つけた場所でした。雰囲気の不気味さが気に入って、勝手に幽霊話をでっちあげ、多くの友人知人を連れてきた懐かしい場所です。

久しぶりにルアー釣りでもしようかと思い立ち、その下見に来たのですがー。

日中に来たのは初めてです。記憶では鬱蒼たる森に包まれた暗い沼の印象だったのに、観てみるとただの貯水池で、流れ込む川も無し。おそらく、疑似餌で釣れる魚はいないでしょう。ここでの釣りは断念、というか、何故か釣り熱も消え去ってしまいました。

人の噂とは不思議なものです。当時はネットも無ければ、携帯もありません。にもかかわらず、僕の嘘話は形を変えつつ広まって、全く別派の知人からこの池の話を聞いたときには、少し怖くなりました。古くから在った伝承と同一内容の話を、偶然ひとに語ったのだろうかと。

そして、ちょっとした心霊事件も起きました。

大学一年の夏季休暇中と記憶しています。夜半に唐突に友人の訪問を受け、出かけることになりました。友人は車でやって来たのに、運転は僕にやれというのです。強引な誘いがいささか不愉快だった僕は、怖がりの友人を、この大谷池に連れて行きました。当時は車で湖畔まで行けました。余地に車を停車し、僕の創作の怖い話を始めた時でした。

友人は親の車を無断借用し、後部シートに大型のラジカセを積んでいました。友人の好きな洋楽が流れていたのですが、その曲が途中で突然、止まったのです。友人は大雑把な性格だったので、カセットテープの収録時間も無頓着に録音したのだろう、くらいにしか僕は思いませんでした。ところが、友人は不審気に後部シートを振り返り、ライターでラジカセを照らした瞬間、血相を変えて僕を見て、震えるような小さな声でこう言ったのです。

「今すぐ、明るいところでまで行ってくれ。頼む」

霊感が強く、不可思議体験を重ねているという友人の、あまりの動揺ぶりが僕も怖くなって、市街地に向けて車を走らせました。友人の恐怖が僕にも感染し、ついアクセルを踏み込んでしまうのですが、

「飛ばすな!」

と友人から強い警告が入ります。僕の恐怖もそろそろ頂点というころ、不破高校の前あたりで不思議な現象を目撃しました。白い靄のようなものが走る車の左上方を追い抜いたかと思うと、車との距離を保ちつつ正面上方で停止したのです。靄というよりは輪郭が明瞭で物質的です。では布かというとそうでもなく、次の瞬間には闇に溶けるように消えてしまいました。驚いて友人を振り返ると、彼は青白い顔で

「お前にも、今のが見えたのか」

とつぶやくように言うのです。

垂井警察署東側の明かるい街頭の下に停車し、友人に説明を求めました。友人はラジカセをよく見てみろと言いました。当時のラジカセはすべてが大きくごつくできています。ボタン類もピアノの鍵盤みたいで、ある程度の力でガチャリと押さねばなりません。

よく見ると、ラジカセは電源が入ったままでした。というより、今も再生中なのです。では何故、音が出ないかというと、再生ボタンとは別に、もう一つボタンが押されていたからなのです。それは、一時停止のボタンでした。

後部シートに置かれたラジカセの一時停止ボタンを、一体誰が、押したのかー。

この事件以来の再訪です。恐怖体験も含めて、すべては懐かしい思い出です。友人曰く、白い靄は若い女性の霊だったそうで。僕の嘘話でも主人公は若くて美くしい女性でした。あの時僕らにいたずらした美人の霊魂とも、僕は再会できたのでしょうか。




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