荘川町受難記
高山市荘川町再訪です。
さて、今回の主目的は屋根の修繕です。本来なら足場を組み、専門業者に依頼するような内容です。それを素人の僕が一人で実施しようというのですから、馬鹿というか無謀というか。
屋根への登攀はこれが二度目です。一度目の登攀でも事件があり、全身に擦過傷を負い、着衣のほとんどを破損させる失態を犯しています。場合によっては大怪我や最悪の事態も十分あり得る状況でした。トラロープ一本、装備無で登れば当然事故に遭います。それに懲りず、にも関わらずに、二度目のチャレンジです。安全担保に今回は登山用のザイル、ハーネス、カラビナにエイト環を購入しました。ところが準備はというと、動画を二本観て理解した気になり、自宅の階段で一度だけ練習。以上。あとは本番で、という為体。「あるいは死ぬかも」という強い予感を覚えていたにも関わらず、です。こういった悪い予兆は思考の視点を変更してしまうものです。すべての事象を曇らせます。現地は標高1000m。大垣の気温マイナス6度です。この寒さも思考を暗黒へと招く不吉な誘引力を持っているようです。
現地物件一泊目。深更。自宅で聞き慣れた市街地の喧騒は全くありません。「ひー、ひー」と不気味な声で鳴く飛翔する生き物が、何度も物件の頭上を往復しています。呪いをかけているのでしょうか? 囲炉裏の薪が爆ぜて、畳の一つを焦がしました。その焦げ跡が髑髏にしか見えません。小さなLEDランタンの光は頼りなく、物象の影を深くするばかり。その陰のひとつが目に留まります。普段ならテルテル坊主と見たでしょう。この夜の僕には首にロープが絡まり、宙づりとなった自身の死体と写ります。影の正体はというとワイヤーハンガーに干した雑巾です。偶然にしては出来過ぎています。
「やはり、明日死ぬのだろうか・・・・」 暗然たる想いは眠りを妨げ、夜は寒く長く続いて不穏な印象だけが際限もなくいや増していくばかり。
翌日。午後作業開始。
結局、完全完了とはいきませんでした。残りは次回です。各種登山用具の扱いに習熟し、練習を重ねてトラブル対応の経験を積まないと多分本当に死ぬと思います。作業の状況はといえば、装備や工具の重さに加え、部材の引き上げにほとんどの体力を使い果たし、すでにカラータイマーの点滅状態。緊張によるものか、疲労感と極度の喉の渇きに苛まれます。鋭い刃物のような屋根頂点に長時間跨っての作業は股間地獄です。激痛の次には吐き気を催し、もはや高所の恐怖など吹き飛んでいます。一度、ロープの扱いに迷い、首に巻こうとして昨夜の首吊りの影を思い出し、慌てて外しました。やはり予兆だったのかも知れません。完全なバッテリー切れ(本体一部不具合)といった体で作業中断。
もしこの作業を成功させれば、僕は不吉の運命に打ち克ち、明るい未来が開かれ、栄光に照らされるかも、などと期待したのに何の感慨も起きることなく。
魔、兎に角。
無事に帰宅はできました。左膝を痛めて歩くのも困難。股間と両の臀部から腿にかけて腫れ上がり、衣服が触れても飛び上がるほどの激痛。確かに生きていることは実感できます。
僕はこの無茶な性格、あるいは旧式で性能の悪い頭脳に、いつか殺されるのだろうと予感しています。残念無念。
股間地獄の拷問器具がこれ。
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